日生不動産販売マンションライブラリ

記事紹介2022年05月12日

マンション決議の盲点 たった一人が拒否権握る場合も

多くの人が共有する分譲マンションの管理組合では、大切なことは多数決で進めるのが原則だ。ただ、実は「たった一人が『拒否権』を握る」場合があると聞いた。マンションのルールの意外な中身を探った。

「所有者の一人がほぼすべてを決めていた」。東京都在住の40代男性はかつて暮らしたマンションを振り返る。大事なこともいつの間にか決まっていた。結果を通告されるだけで不信感が募り、売却したという。本当にそんなことがあるのだろうか。


■重要な案件ほど多くの賛成割合が必要、が原則だが

マンションのルールは区分所有法という法律が定めており、重要な項目ほど高い賛成割合が必要だ。例えば、管理規約に記載されていない管理費の値上げなどは過半数の賛成でいい。これを「普通決議」と呼ぶ。規約に記載がある場合は事情が異なる。「規約そのものの改正となれば要件が厳しくなる」(コンドミニアム・アセットマネジメント=東京・中央の渕ノ上弘和代表)ためだ。

規約の改正はより重要な項目とみなされ、4分の3以上の賛成が必要だ。これは「特別決議」と呼ばれ、駐車場など共用部の大きな変更なども通常、この決議が求められる。さらに重要な項目としては建て替えがあり、5分の4以上の賛成がなければならない。

大切なのはこれらの賛成が単純な戸数ではなく「区分所有者と議決権のそれぞれに対する割合」と規定されていることだ。

例えば1戸あたり1議決権である1棟20戸のマンションがあるとき、1人が11戸所有すると議決権だけなら、1人で過半数を占める。そこで法律は、所有者の人数ベースでも一定割合の賛成を集めることを求める。


■普通決議なら人数ベースの縛りは外せる

法律の原則通りなら、冒頭の男性が話すマンションのような例は起きないが、例外がある。法律をさらによく読むと、普通決議については「規約に別段の定めがない限り」と書いてある。要するに普通決議なら規約で決めれば、人数ベースの縛りなどは外せるということだ。

実際、国が管理規約のモデルとして示す「標準管理規約」も議決権ベースの内容となっている。まず決議を行う総会は「議決権総数の半数以上を有する組合員が出席しなければならない」。その上で「総会の議事は(特別決議などを除いて)出席組合員の議決権の過半数で決する」という。

極端な場合、一人が欠席するだけで総会が開けず、決議もできないということが考えられる。「その人が『事実上の拒否権』を握るような形もあり得る」(マンション管理に詳しい弁護士の篠原みち子さん)


■「元の地主」が多くの議決権を握るケースも

さらに複雑なのは法律が「1戸1議決権」とは定めていない点だ。専有面積に応じて議決権を決めることもあり、複数戸を持たなくても議決権割合が高い所有者がいることもある。

さくら事務所(東京・渋谷)のマンション管理コンサルタント、土屋輝之さんは「もとの地主が開発に協力し、建ったマンションの議決権の多くを握り、影響が出る例などがある」と話す。

例えば、在宅勤務の増加などで注目されたマンション共用部の宅配ボックス。「所有者の大半が新設を要望しても、無関心なごく一部の元地主らが多くの議決権を握ると簡単に否決されてしまう」(同)

一方、より重要度が高い特別決議は普通決議と違って基本的に緩和はできない。特別決議でも共用部の変更は規約によって一定の要件緩和が可能だが「実例はほとんどない」(篠原さん)。特別決議への影響こそ限定的だが、やはり少数の所有者が多くの議決権を握ると悪影響が出てくる。


■中古マンションを買うときは議決権にも注意したい

最近は新築マンションの価格高騰で中古マンションに関心を持つ人が増えている。さくら事務所の土屋さんは「購入前に、立地や間取りなどだけではなく、多数の議決権を握る所有者がいないか確認しておく方が無難だ」と助言する。

ルールを調べると、マンションを買うということは単なる不動産取得ではなく、一種のコミュニティーへの参加を決めることなのだと改めて気づかされた。


■建て替えのハードル、低くするリスクもある

マンションのルールは今後また変わるかもしれない。5分の4以上が必要とされる建て替え決議の要件緩和が検討されているからだ。もし必要な賛成の割合が下がれば、それだけ建て替えの話し合いや決議が進むとの期待もあるが、専門家の間では慎重な見方が多い。渕ノ上さんは「結局、建て替えは所有者一丸でないと現実には進まない。必要な賛成が減って決議を強行するような例があるとかえって問題が深刻になる」とみる。

篠原さんは「老朽マンション対策が『建て替えありき』のように考えられることも問題だ」という。人口減の日本で、あらゆる老朽マンションを建て替えるのは非現実的だ。「今の建物を長持ちさせる施策の方が、もっと優先的に検討されてもいいはずだ」(同)。築40年超だけで100万戸以上がある日本のマンション。建て替えルールの再整備以外にも考えるべきことが多いのは確かだ。

(日本経済新聞Webより引用)